【シルクロード旅行】河西回廊 武威編


【武威のシンボル 銅奔馬】

河西回廊 武威へ

 国慶節の連休に、甘粛省の主要都市を列車で巡る旅に出発。最初の目的地は「武威」。 中国西北地方に細長く横たわる甘粛省のおよそ中間に位置する。古来「涼州」と呼ばれ、漢の武帝の時代に切り拓かれた歴史ある街だ。


19時半の列車で西安南駅を出発


西安南駅

 シルクロードの玄関口、西安から今回の旅をスタートする。西安から列車の旅といえば城壁の北に位置する西安駅が有名だが、西安には他にもいくつか駅がある。そのひとつが西安南駅。市内から車で南東へ1時間ほど、駅の規模は西安駅よりもかなり小さく、付近に数件の小さなホテルや食堂、売店があるのみの田舎のローカルな駅だ。今回は切符手配の都合上、この西安南駅からの乗車となった。 駅が小さいからといって行き来する列車も小さいわけではない。到着するのは中国で一般的な16両編成の長い列車だ。到着時刻が近づくにつれて、小さな駅の前には次第に乗客が集まってきた。すごい人だ。やがて改札が始まるのだが、なぜか駅の正面にある改札口でなく、少し離れた駅員通用口から駅に入るよう誘導された。狭い入り口に数百人以上の人々がいっせいになだれ込むので、改札どころの騒ぎではない。烏合の衆である。駅員はハンドマイクで何やら叫んでいるが、切符を確認する気はないようだ。他の駅では必ず行われる荷物の赤外線チェックも行われないままの乗車となってしまった。

車中で起床


中衛を過ぎてしばらくすると黄河が現れる

ゴビ灘でラクダが草をはむ

 「硬卧」という種類の寝台車両に乗り込む。目的地の武威まで約17時間の長丁場だ。切符には3段のうち1番上のベッドが記されていた。一番上のベッドは昇り降りがしずらく、窓もなく景色を楽しむことはできないが、他人が上がってくることはまずないので、安全面では安心できる。逆に一番下のベッドは上のベッドへの昇り降りに使われたり、見知らぬ人が腰かけて隣のベッドの人とおしゃべりをしたりしていて、落ち着けないことが多い。もちろんそのような人たちと積極的に交流し、旅のよい思い出にすることもできる。寝台列車の旅の醍醐味だ。
 発車時刻は19時半。しばらくすると日は暮れ、窓の外は暗闇に包まれた。景色を楽しむこともできないので、早々に荷物の整理や寝支度を整え、22時の消灯前に就寝してしまった。
 寝台車の寝心地は決してよいとは言えない。よく揺れるし、音も大きい。ふと目が覚めて今どの辺りを走っているのだろうか、などと考える。これを何度か繰り返してようやく夜が白み始めた。朝8時頃、寧夏回族自治区の「中衛」の駅に到着した。陝西省を抜けたのである。私の乗車した「K1582」は重慶からウルムチ南駅を結ぶ列車で、西安を出ると北に向かい延安などを通過し、西に折れて中衛に至る。次の停車駅が武威だ。中衛を発車し、左手に黄河の流れを眺めたり、赤茶けた山あいをしばらく走るとゴビ灘が現れる。時おりラクダや羊の群れが草をはんでいるのを目にすることができる他は、ゴビ灘の荒野が延々と続く。いつ果てるともしれぬ風景は壮大そのものだが、まったく代わり映えしないために次第に少し飽きてくるのも仕方ない。中国は広すぎる!

お昼頃武威駅に到着し、市街散策


武威のシンボル鼓楼る

大雲寺の鐘楼

武威市歩行商業街。多くの若者たちで賑わっている

涼州市場の風景

 やがて列車は武威駅に到着。天気は快晴そのもの。絶好の観光日和である。食事を済ませ、孔子を祀った文廟、西夏博物館、大雲寺跡に今なお残る鐘楼、そして武威の街のシンボルである鼓楼を観光した。
 文廟の向かいにある西夏博物館は、規模は小さいが訪れて損はない。井上靖の小説「敦煌」を読んだ人ならぜひ訪れたい。「敦煌」には宋の時代に甘粛省一体を統治していた西夏王国が登場するが、当博物館には、現存するもので最大の西夏文字の石碑が展示されているのである。石碑は2つの対になっており、片方が西夏文字、もう片方はそれを漢字に翻訳したもので、今なお謎に包まれた西夏王国の貴重な研究資料となっている。
 大雲寺は歴史が古く、創建は五胡十六国時代までさかのぼるそうだ。明代には日本の僧「沙門志満」が訪れ、寺の再建に力を尽くしたとされている。 残念ながら1927年に起きた地震によってほとんどが倒壊してしまい、現在は鐘楼といくつかのお堂を残すのみとなっているが、数百年も前に武威の街を訪れた日本人がいたことに深い感慨を覚える。
 市街の中心部「武威市歩行商業街」はデパートが立ち並び、日中は歩行者天国になっており、若者たちが集まる繁華街だ。この通りの中心に「涼州市場」と呼ばれるレストラン街がある。フードコートや小ぶりな食堂から少し敷居の高そうなレストランまで、たくさんの飲食店が軒を連ねている。ここで武威の名物のひとつ、「三套車(サンタオチャー)」を味わってみよう。三套車は麺、味付け肉、そしてお茶の3点セットの料理だ。しかし特段なんの特徴もない、程よい味わいの麺とお肉、そしてお茶だった。涼州市場には三套車をウリにしている食堂がいくつもある。
 
 

運転手の宋さんと天梯山石窟へ出発


この湖のほとりに天梯山石窟がある

壮大なたたずまいに圧倒される

 翌朝9時頃に運転手の宋さんと待ち合わせ、「天梯山石窟」に向かう。武威市内から車で1時間ほど、山あいの美しい景色は甘粛省ならではだ。赤茶けた山々と畑の緑、そして空の青。
 天梯山石窟(大佛寺)の最も古い記録は439年の北魏時代のもので、すでにその頃には創建が始まっていたようだ。当時、北魏がこの辺一帯を治めていた北涼を滅ぼし、中央から役人とその家族など3万人あまりが涼州に移住させたため大いに繁栄した。大佛寺には3千人もの僧が在籍し、天梯山石窟の発展に大きな影響を与えたことが伺える。
 メインはやはり大きな大仏だ。この大仏を観るだけでも武威を訪れる価値は充分にあると言えよう。 当石窟は大きな湖に面しており、大仏はこの湖畔を眺めるような形で建っている。ボートなどで湖畔からこの大仏を眺めてみるのもきっと素晴らしいだろう。
 現在の天梯山石窟は他の有名な石窟と比べればその規模は小さい。30分ほどで参観を終えてしまった。駐車場で待っていた宋さんはこんなに早く戻ってきたのかと驚いた様子だった。仕方ないんですよ。そんなに見るところなかったから。
 宋さんは30代前半。一児のパパだ。幼稚園に通う娘さんがいる。車を走らせながら、お昼は何を食べる?と宋さんが聞いた。昨日三套?を食べたことを話すと、それじゃあ「面皮子(ミェンピーズ)」を食べに行こう。面皮子も武威の名物なんだよ。

面皮子を食べる


面皮子。タレをよくからませて食べること

 面皮子とは?陝西省西安の名物に「面皮」がある。あらかじめ茹で上げておいた麺にもやしや辛いタレをからめて食べる大衆食だ。宋さんによると、面皮と面皮子は全く違うものらしい。車はやがて市内に入り、大通りをはずれて古いアパートの立ち並ぶ住宅街で停車した。宋さんはすぐ近くの屋台を指さした。なるほど「面皮子」と書かれた屋台があった。おばさんがひとりで切り盛りしている様子。宋さんが注文してくれて、いっしょに屋台の椅子に腰かけた。おばさんは屋台のテーブルの上にある茶色い大きな塊を柵切りにし始めた。小麦粉を練ったものだろうか。西安で食した面皮は白い麺だったが、こちらはずいぶんと茶色い。小麦粉の種類の違いだろうか。おばさんは切った麺を盛り付けた小皿に厚揚げ、にんじんの細切り、タレなどををかけて、我々のテーブルに置いた。冷たいものかと思っていたが、面皮子は温かかった。上にかかっているタレをよくからませながら食べる。とても美味しいというものではないが、小腹が空いたときにはもってこいの軽食だ。宋さんはあっという間に面皮子を平らげ、私の分の支払いもしてくれた。

羅什寺塔と雷台


鳩摩羅什を祀った羅什寺。奥に羅什塔が見える

雷台漢墓から出土したもののレプリカが並べられている

 武威を発つ列車の時刻は14時過ぎで、まだだいぶ時間があるため、約束にはなかったが、宋さんが市内を案内してくれた。まずは中心部からほど近い場所にある羅什寺塔へ。羅什寺は後秦時代に生きた亀茲(現在の新疆ウィグル自治区クチャ県)出身の僧鳩摩羅什を祀った寺で、敷地内にある彼を供養するために建てられた塔が有名だ。鳩摩羅什は亀茲国を滅ぼした後涼の王呂公に拘束され、18年もの間涼州で生活を送り、後に長安を訪れ、仏教の経典を漢訳する作業に従事した。シルクロードの歴史を語る上でも欠かせない人物だ。羅什寺の参観は無料で、観光客や地元の人たちで賑わっている。
 次に訪れたのは雷台漢墓。後漢時代の将軍の墓で、膨大な銅製の馬車が出土したことで知られている。中でも有名な「銅奔馬」はその完成度、芸術性が高く評価されており、現在は甘粛省の省都蘭州市にある甘粛省博物館に展示されている。雷台漢墓は公園として綺麗に整備され、人々の憩いの場となっている。

宋さんと別れて張掖へ向う列車に乗る


 宗さんに武威駅まで送ってもらい、そこでお別れとなった。宋さんとは当初天梯上石窟へのチャーターのみの約束だったが、思いがけず食事や他の名所にも連れていっていただいた。この宋さんのご好意が旅を思い出深いものにしてくれた。  さあ、武威から次の目的地?掖まで、3時間弱の列車の旅となる。 (終)


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